マタニティからスタートしたPeaPodは『卒乳しても着られるデザインを』というニーズを受け、普段使いのインナーを企画していました。しかし、企画が進まずボンヤリと何年も経っていた頃です。
自分がいかに無防備で、何も起こらない前提で毎日を過ごしていたかを痛感する出来事が起きました。
2011年、東日本大震災です。
被災地の避難所では、プライベートのない空間で疲れた体を横たえる人々。かたや首都圏では、帰宅難民となって駅の柱にもたれ掛かって眠る人。テレビに映し出される光景に思わず我が身を重ねてみた時、改めて考えさせられました。
いつ、どこで、どんな出来事に遭遇するかわからない。その時、瞬時に判断し、命を守る行動を取れる自分であるためには何が必要なのだろう?と。
そこで行き着いたのは『いつも自分が自分の中心に居ること』でした。
例えば、何かガマンをしている時というのは、無意識にその部分の感覚を愚鈍にし、刺激に対する感度を下げることでやり過ごしているように思います。そして同時にそれは、元々持っていた感覚を自ら眠らせてしまっているとも。
けれども、常日頃から心身ともに適度にリラックスして自分の感覚が整っていれば、いざという時はすぐにスイッチオン、心の動きと感覚と動作が連携して働き、対応力や判断力も高まり、自分の持つ最大限の力が発揮できるのではないでしょうか。
そこで決心したのです。
もう、ストレスは無視しない。
『家に帰ったら脱ぎたくなる』ようなものは、身に着けない。
いつもリラックスして万端な自分でいられる、そんなインナーウェアを作ろう!と。
知り合いのシルクメーカーさんが、赤ちゃん用のシルク肌着を被災地に寄付されたことにも背中を押されました。シルクの“汚れがつきにくく落ちやすい”性質は自浄作用と呼ばれ、雑菌も繁殖しにくいので、頻繁な洗濯を必要としません。新陳代謝が活発でお肌がデリケートな赤ちゃんにとって、何日もお風呂に入れず着替えすら出来ないという状況は、どんなにか大変でしょう。
けれどそんな時こそ、着続けても不快感がないシルクの肌着は、きっと助けになるだろうと思いました。
そして、一見贅沢品のように見えるシルク製赤ちゃん肌着は、実は過酷な中でも身体を守る実用品かもしれないと思った時、私は自身の『シルクは贅沢品』という思い込みに気づくと同時に、あることを確信したのです。
日常の衣から出来るアプローチとして、シルクは『身にまとう防災』になり得るのではないかと。
小さいながらも衣に携わるメーカーとして、新たな視点とミッションを与えられた気がしました。
より多くの方にシルクの本当の価値を知ってもらい、活用していただくために、誰もが暮らしに取り入れやすいシンプルデザインである必要があります。
そうして、何年も頓挫していた『普段使いできるインナー企画』は、“衣から考える防災“という視点を持った途端、デザインや細部の仕上げのアイデアがあっという間にまとまり、震災後わずか1週間でサンプルが完成したのです。
今日、このままの恰好で眠らなければならないかも知れない。
明日も明後日も、家に帰れずそのままどこかで生活することになるかも知れない。
けれど、リラックスできるものを身につけ、私はいつも私らしく在るという安心があれば、それは何かを乗り越えるための要素になり得ないでしょうか。
だから、もしも締めつけや肌ざわりなど、下着に対して何かをあきらめながら着続けているという方がいたら、これ以上ガマンして欲しくないのです。
シルクの心地よさに包まれて、いつもリラックスできること。
誰かの目線や価値観ではなく、そのままの自分を大切に。
ご自身の在りようや大切にしたいことを自分で選んでいるという誇りを持って、その方らしく輝いた毎日を過ごしていただくこと。
そんな、新しい選択としての『しめつけないインナーウェア』を作り続けたいと思います。
◎大震災をきっかけにして生まれた『シルク素肌インナー』